呼吸法Ⅰ

呼吸法は老化防止のための「肺のストレッチ」と考えられ、呼吸法がそのまま健康法になっていることに気がつくと思います。

 

有名な白隠の「夜船閑話」では、修行が過ぎて身も心もボロボロになった折りに、白幽という仙人から「内観の秘法」を授かり実修に励んだところ、身も心もすっかり良くなったという話。
白幽仙人から教わったのは、"気"を沈めて丹田に集中させるという観念法であり、白隠は寝たまま下半身を強く意識することによって"気"を降ろすことに成功したが、これを坐った姿勢でより効果的に行えるようにしたのが調和道・丹田呼吸法である。

 

藤田霊斎は真冬に高尾山や高野山にこもって呼吸法を工夫し、気管を開けたままで息を止めることによって気合を充実させ、息を吐くときに体を前傾させることで横隔膜の動きを助ける画期的な方法を編み出した。

 

自ら考案した呼吸法で虚弱体質を克服し89歳まで生き抜いた師の教えの根本は"上虚下実"というもので、調身調息調心の基本である。

 

いわゆる丹田呼吸法には、調和道の他に二木式腹式呼吸法、岡田式静坐法などがあり、これらは三大呼吸健康法と呼ばれています。

調和道丹田呼吸法  

 

調和道丹田呼吸法は、真言宗智山派僧の藤田霊斎道祖により明治40年に、厳しい修業の末に体系化されたものであり、お釈迦様が創造され東洋古来の多くの先達が実践してきた丹田呼吸法の真髄を掴み、現代人にも実行しやすいように工夫したものです。
上半身はリラックスし、下半身はどっしりした状態の上虚下実(じょうきょかじつ)を理想とする。

 

初代(昭和2年~昭和30年)  藤田霊斎道祖
2代(昭和35年~平成2年)  村木弘昌医学博士が考案したという"三呼一吸法"
フッ、フッ、フーッと三回連続して息を吐く(息を全て吐き出す)、吸うときは自然に空気が入ってくるように一息で行う。


3代(平成2年~平成19年)  帯津良一医学博士(日本ホリステック医学協会会長)
4代(平成19年~      )  日野原重明医学博士(聖路加国際病院理事長)

 

二木式腹式呼吸法

 

二木式健康法の創始者である二木謙三(ふたき けんぞう)博士は幼少の頃、虚弱体質を克服するため、腹式呼吸、冷水摩擦、駆け足などを熱心に実行したそうです。
その後、一日一食にしてみたところ、胃酸過多症が治ってしまったことから食についての研究も深めてゆき、西洋医学を深く学んだ上で東洋的な健康法の普及の活動を行った。
60代のときには、皇武館(合気会本部道場の前身)に入門し合気道開祖植芝盛平に師事した経験も。

 

呼吸法は、胸と腹が一緒に出て一緒に引っ込んでゆく胸腹式呼吸法を推奨。肺の呼吸面をまんべんなく広くし、肺全体が自由に呼吸することになる。
息を吸うときは腹が膨れるように硬くなるように吸い、あまりいきまないように少しとらえてから静かに吐き出す。胸の方から先に空気を出し、次に上腹にある空気が胸を通って外へ出るように、下腹には少し空気が残るように出す。
腹式呼吸であること、「吸う」より「吐く」方に時間をかける。

岡田式静坐法

 

明治末期から大正時代にかけて、岡田式静坐法の創始者、岡田虎二郎氏が始めた岡田式静坐法は、藤田雪斎氏の調和道丹田呼吸法、二木謙三氏の二木式腹式呼吸法とともに、それぞれ独自の呼吸法が大流行しました。

 

呼吸法は、
 (1)正しき呼吸は、息を吐く時下腹部(臍下)に気を張り自然に力の籠るやうならざるべからず。
 (2)其結果として息を吐く時下腹膨れ、堅くなり、力満ちて張り切るやうにならざるべからず。
 (3)臍下に気の満つる時、胸は虚となる。
 (4)吐く息は緩くして且長し。
 (5)息を吸ふ時は、空気胸に満ち来りて胸は自然に膨張す、胸の膨るゝ時、臍下の張は自然に軽微の収弛を見る。
 (6)胸の膨るゝ時も腹は虚となるにあらず、呼気吸気に拘はらず、重心臍下に安定して其処に気力の不断の充実なかるべからず。
 (7)正しき呼吸の吸う息は短し。
 (8)健全なる呼吸は他人が見て分らぬ位に平静なるべし。

 

この中には「ならざるべからず」と「なかるべからず」という二重否定の文章が3カ所も出てくるので、ちょっとわかりづらいかもしれない。
要するに、(1)では「息を吐くときには、自然に臍の下に力が籠らなければならない」ということ。
岡田式静坐法では、息を吐くときに下腹部が膨れ、息を吸うときに下腹部が引っ込むのを「正しき呼吸法」としています。
これは、「腹式呼吸法」とは逆になるので、「逆呼吸法」と呼ばれている。
ちなみに、当時、後に東京帝国大学伝染病医学・細菌学教授になる二木謙三氏が始めた「二木式腹式呼吸法」は息を吸うと腹が出て、吐くときに腹がへこむ、という腹式呼吸法。


腹式呼吸法と逆呼吸法ではまったく反対のことを説いているが、大切なことの共通点があった。「坐る」ということと、「臍の下(下腹)に気を張る」ことを重視していることである。臍の下というのは古来、「丹田」といわれて、身体の中心とされた場所。

 

古来、「肚(はら)をくくる」と言うときの「肚」が、この丹田に当たり、岡田式静坐法を始めた岡田虎二郎氏が主眼としているのは、この「肚の力をつける」ということになり、「肚の力をつける」訓練法が、この静坐法だったということになる。

 

岡田式静坐法では、日常生活においても常に静坐の要求を満たすべきことが解かれています。
臀は、成るべく後方へ突き出すこと。
腰は、成るべく前へ反らせること。
腹は、成るべく張って力を入れること。
膝を開け、肛門を窄め気味にすること。
胸をすぼめ、鳩尾を落すこと。
腹は、臍より下を伸ばし、上を縮めること。
肩を下げ、背を少し丸くすること。
息は、出入とも、長く静かに、鼻からすること。
「くの字三つの姿勢」をし、常に胴體を短くして居ること。
腹力の中心を、臍下丹田に安定すること。

直葬・天国への引越